沖縄の「ザル経済」とは?(まずは概要)
沖縄では、国から多額の振興予算が投じられているにもかかわらず、その利益や税収の多くが本土へ流れてしまい、地元にお金が十分に残らない構造を「ザル経済」と呼ぶ。ザル(笊)に水を注いでも底から漏れてしまうように、予算を入れても県内に蓄積されず外へ流出してしまう様子を例えた表現だ。
背景にあるのは、大型工事を受注できるだけの技術力・資金力を持つ企業が本土に偏っていること、沖縄の地銀だけでは大規模融資をまかないきれないこと、そして政治と企業の結びつきという構造的な要因である。以下では、その実態と仕組みを、2026年時点の最新情報を交えて解説する。
この記事は2022年の記事をベースにリライトしています。
1. 公共事業の半分近くが県外企業へ―40年間のデータ
2022年3月、琉球新報は「沖縄振興予算の公共工事、47%が県外企業受注」という調査結果を報じた。1979年度から2019年度までの40年間で、沖縄振興予算による公共事業のうち金額にして約7,567億円、割合にして47%を県外企業が受注していたという内容だ。直近12年間(2007〜2019年度)に絞っても、31.3%が県外企業に流れているとされる。
なぜ、沖縄を潤すための予算が県外へ流出してしまうのか。その背景には「技術力」「資金力」、そして「政治と企業の癒着」という構造的な問題がある。
2. なぜ予算が県外へ流れるのか―「ザル経済」の仕組み
法人税が沖縄に落ちない構造
本土の大手ゼネコンが公共事業を受注した場合、実際の施工を担うのは地元の下請け企業であることが多く、一定の雇用や利益は地元にも生まれる。しかし、元請けの最も大きな利益にかかる法人税は、本社のある本土の自治体に納税される。県内企業が直接受注できていれば県の税収になったはずの分が、そのまま抜け落ちてしまうのが実態だ。
なお、公共事業に限らず、本土の大手企業(乳業、自動車、コンビニ、飲料メーカーなど)が沖縄で「沖縄◯◯株式会社」という別法人を立てるケースは多い。これはビジネスを円滑に進めると同時に、地元に根ざした企業であることを示し、地元に納税する姿勢をアピールする狙いもあるとされる。
技術力の壁
大型公共工事には高度な特許工法や大型重機など専門設備が必要になる場合が多く、本土のスーパーゼネコンでなければ対応できない案件では、入札の時点で県外企業への発注が事実上決まってしまう。地元企業が設備投資に踏み切ろうにも、将来にわたって投資を回収できるだけの受注が続くかどうかという経営リスクが重くのしかかる。
資金力の壁―地方銀行中心の金融構造
長期の大型工事には巨額の運転資金と融資が不可欠だが、沖縄にはメガバンク(都市銀行)の支店がほとんどなく、琉球銀行や沖縄銀行といった地方銀行が中心となっている。地方銀行単体では一企業に数百億円規模の融資を実行する体力に限りがあり、結果として資金力のある本土企業が案件を獲得しやすい構図につながっている。
3. 政治と企業の根深い関係
この問題をさらに複雑にしているのが、県政・国政と地元企業とのつながりだ。過去には市町村長や職員が企業から金品を受け取る事件がたびたび表面化しており、氷山の一角に過ぎないとの指摘もある。
沖縄の土木建築業界や大手ビジネスグループは、政治の勢力図と密接にリンクしているとされる。保守系・革新系のどちらが県政を握るかによって、優遇される企業の顔ぶれが入れ替わる構図がしばしば指摘されてきた。保守系のもとでは地元有力建設会社と自民党の結びつきが、革新系(オール沖縄)のもとでは地元大手流通・建設グループと県政との結びつきが、それぞれ語られてきた経緯がある。
年間2,000億〜3,000億円規模の沖縄振興予算が投じられ続けているにもかかわらず、沖縄県民の所得水準が全国最下位クラスにとどまり続けているのは、公平な入札よりも一部の政治家・企業間での「分配」が優先され、一般県民まで恩恵が届きにくい構造があるからだとの見方が根強い。
4. 【2026年最新情報】止まらない人手不足と入札不調、そして予算の潮目
ここからは、2026年時点で明らかになっている最新の動きを補足する。
公共工事の「不調・不落」が全国最悪水準
りゅうぎん総合研究所が2026年1月に発表した調査によると、2024年度に沖縄県が発注した公共工事のうち、応札者がいなかったり予定価格を超過したりして落札者が決まらなかった「不調・不落」の発生率は約22%にのぼり、全国平均(6.9%)を大きく上回って全国最悪だった。国土交通省の集計でも、不調・不落率が20%を超えていたのは沖縄県のみとされる。離島部ではさらに深刻で、34%に達したとの報道もある。
背景にあるのは深刻な人手不足だ。沖縄県内の建設技術者の有効求人倍率は5倍を超える水準まで上昇しており、資材価格の高騰と相まって、県内企業が入札そのものに参加できないケースが増えている。県外企業への発注依存という「ザル経済」の構図に加えて、今度は県内企業が受けたくても受けられないという新たな課題が浮き彫りになっている形だ。
沖縄振興予算、6年連続で3,000億円割れ
沖縄振興予算をめぐっては、「年間3,000億円」が長らく一つの目安ラインとされてきた。2013年末、当時の仲井真弘多知事が米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に向けた埋め立てを承認した際、政府との間で毎年3,000億円台の予算を確保するという事実上の合意があったとされ、これが基準として語られてきた経緯がある。
しかし、辺野古移設に反対する立場をとった翁長雄志県政・玉城デニー県政のもとでは予算は減少傾向をたどり、当初予算のピークだった2014年度の3,501億円から、玉城県政下の2022年度(2,679億円)以降は6年連続で3,000億円を下回る状態が続いた。2026年度当初予算は2,647億円にとどまっている。
2026年9月の知事交代と予算増額への調整
2026年9月13日投開票の沖縄県知事選挙では、自民党などが推薦した新人の古謝玄太氏が、3選を目指した現職の玉城デニー氏を大差で破り初当選した。保守系県政の誕生は12年ぶりとなる。
すでに2027年度予算の概算要求段階では沖縄振興予算として2,897億円が計上されていたが、知事交代の翌日には、政府・与党が県の求める3,000億円超への増額に向けて調整に入ったと報じられた。辺野古移設に協力的な知事のもとでは予算が積み増され、反対する知事のもとでは減額されるという構図が、この十数年にわたり繰り返されてきた形だ。実現すれば、翁長県政末期以来となる3,000億円台の予算が復活することになる。
この一連の流れは、予算の「量」だけでなく「誰が受注するか」という配分の問題、つまり「ザル経済」の根本的な構造とは別の論点であることには注意が必要だ。予算総額が増えても、県外企業への発注比率や政治との結びつきという構造そのものが変わらなければ、恩恵が県民に届きにくい状況は続く可能性がある。
まとめ:構造的な「闇」は解消に向かうか
技術力の底上げや金融機関の再編(地銀統合など)が進めば、県外企業への依存度は徐々に変わっていくかもしれない。しかし、最も根深い「政治と企業の癒着」を断ち切らない限り、沖縄のザル経済の本質的な解決は難しいというのが、これまでの構造から見えてくる姿だ。
2026年の知事交代と予算増額の動きは、沖縄経済にとって大きな転換点になり得る。ただし、予算規模の回復が県内企業の受注拡大や県民所得の向上に直結するかどうかは、今後の発注のあり方や制度改革次第と言えるだろう。この構造は土木建築業界にとどまらず、観光業や地元メディアにも広く関わっているとされ、引き続き注視が必要なテーマだ。
参考:琉球新報「沖縄振興予算の公共工事、47%が県外企業受注」、日本経済新聞、沖縄タイムス、りゅうぎん総合研究所「沖縄県における公共工事の不調・不落の実態調査」、共同通信ほか各社報道を基に構成。
