沖縄県知事に就任する古謝玄太氏が、政府が全国で推進する「特定利用空港・港湾」いわゆる「特定利用」の指定を容認する方針を示したと、琉球新報が報じた。前知事の玉城デニー氏が軍事拡大への懸念から慎重姿勢を貫いてきたのとは対照的な動きだ。今回はこの「特定利用」という制度について、沖縄の現状を整理しながら深掘りしてみたい。
琉球新報:空港・港の特定利用 古謝氏、指定同意へ再度示す 沖縄県の管理施設
そもそも「特定利用」とは何か
「特定利用空港・港湾」とは、自衛隊や海上保安庁が有事や災害時などの緊急時に、民間の空港・港湾・道路をスムーズに使えるようにするため、国が指定する制度だ。
指定されると、平時のうちから国・自治体・空港港湾管理者が協議を重ね、次のような準備を進めていく。
- 自衛隊機が利用しやすい体制の整備
- 海上保安庁機などへの対応
- 滑走路・誘導路など施設の整備・改修
- 有事・災害時に運用を円滑化するための調整
簡単に言えば、自衛隊や海上保安庁などが、平時から民間の空港や港湾を円滑に利用できるよう、施設の整備や利用に関する調整を進めておく制度。
あくまで平時は民間施設として運用されるが、「いざというときに自衛隊・海保が使えるよう、日頃から受け入れ体制を整えておく」という考え方に基づいている。指定された場合、有事対応を見据えたインフラ整備が求められる場面も出てくる。
沖縄県は2026年度の県議会資料で、特定利用空港・港湾について「民生利用を主とするもの」と説明している。
沖縄ですでに指定されている施設
沖縄県内では現在、以下がすでに特定利用の指定を受けている。
空港・港湾
- 那覇空港
- 平良港(宮古島)
- 石垣港
道路(自衛隊駐屯地から那覇空港へのアクセス道路として13路線)
- 国道58号線:港川道路/宜野湾バイパス/恩納バイパス/名護東道路/港川高架橋
- 国道329号:南風原バイパス/与那原バイパス/金武バイパス
- 国道331号:那覇空港自動車道(空港道路・豊見城東道路・豊見城西道路)/糸満バイパス
- 沖縄自動車道(IC・アクセス強化および既存事業の促進)
これらの道路整備は、陸自那覇駐屯地や勝連分屯地、八重瀬分屯地、さらに北部エリアの拠点から那覇空港への輸送ルート確保が主な狙いとされる。
県内各地で進む道路工事の中には、県民の利便性向上だけでなく、有事を見据えた側面があることも押さえておきたいポイントだ。
国管轄と県管轄で分かれる「指定のハードル」
ここで重要なのが、指定の主体による違いだ。
国が管轄する港湾・道路は政府の判断で指定できるが、県が管轄する施設については県の同意が必要になる。
玉城前知事は、県管轄港湾の指定についても一定の検討はしていたとされるが、
- インフラ整備がどこまで及ぶのか
- 日米共同訓練などでの使用があり得るのか
といった不透明な点が多く、慎重な立場を取り続けてきた。背景には、指定によって有事の際に「軍事目標」とみなされるリスクが高まるという、革新系からの従来の懸念がある。実際、琉球新報の記事では、米・イラン間の緊張を巡り、米側が「軍事利用された民間港湾は国際法上、正当な軍事目標となり得る」とイラン側に警告した事例が紹介されている。
古謝知事のもとで指定される可能性がある施設
古謝氏の就任により、今後指定される可能性がある県管轄施設は以下の通り。
空港
- 新石垣空港
- 宮古島空港
港湾
- 中城湾港(沖縄本島東海岸)
さらに将来的な検討対象として、以下も挙がっている。
- 与那国空港
- 与那国新港(構想中)
- 下地島空港(宮古島市)
- 久米島空港(有事・防災アクセスとして)
- 波照間空港(有事・防災アクセスとして)
与那国町議会ではすでに「特定利用」推進が議決され、県への要望書提出も行われている。
一方、下地島空港には歴史的な経緯がある。1969年の空港整備時に交わされた「屋良覚書(屋良コープロ)―軍事利用しないことを定めた合意」が今も重くのしかかっており、過去には下地空港での民間訓練が撤退し、利用者が不在となった時に、自衛隊利用案が浮上しながらこの覚書によって実現しなかった経緯がある。地元合意のハードルは決して低くない。
市町村の自治体としては、「特定利用空港・港湾」に指定されることで、空港の拡張整備、滑走路の延長、や港の整備、大型船の利用が可能になるなど、日常的なメリット、災害時の対応などのメリットで、比較的受け入れに協力的な市町村も多い。
今後の見通し
古謝知事の就任を機に、石垣・宮古など離島以外の施設についても「特定利用」の検討が加速する可能性が高い。一方で、革新・左派系の勢力は軍事面への懸念から反対姿勢を強めていくことが予想される。
もっとも、「特定利用」は軍事目的一辺倒の話ではない側面もある。災害時の活用に加え、公共事業としての経済効果や、空港・港湾拡張に伴う地域経済への波及効果も見込まれるため、対象自治体では今後、賛否を含めた議論が深まっていくとみられる。県内市町村の首長に保守系が多いという政治的な構図も踏まえると、整備に向けた動きは今後も着実に進んでいく可能性が高いだろう。
筆者後書き
現状の沖縄県において、「特定利用空港・港湾」の指定は早急に進めるべきだと考える。
軍事目的での利用拡大に懸念の声を上げる方も少なくないだろう。今回の琉球新報の記事でも、古謝氏の意向に対して懸念を含んだニュアンスの内容となっている。
しかし、沖縄で大規模な災害が発生した場合、離島が孤立状態に陥ることは誰の目から見ても明らかだ。さらに、沖縄は災害対策の遅れもかねてから指摘されている。
本土と違い、万が一、地震や津波などの災害が起きた場合、水や食料は空輸や船舶でしか運び込めない。特に離島においては、島内に備蓄されている水や食料も限られているはずだ。
さらに、たとえ「特定利用空港・港湾」に指定していたとしても、災害によって空港や港のどちらかが壊滅的な被害を受けてしまえば、非常に厳しい状況に追い込まれることは目に見えている。
これらを踏まえると、主要な離島には、空港と港の両方で「特定利用空港・港湾」の指定を進めておくことが必要だと考える。
また、近年は有事に備えた本土への疎開についても議論が進んでいるが、円滑な避難・疎開を実現するためには、いざという時に一度でも多くの人や物資を輸送できる体制を、平時から整えておくべきだろう。
