全国的な注目が集まる中、メディアやネット上で様々な議論を呼んでいるのが、下地幹郎氏の出馬をめぐる動向だ。
下地氏はこれまで衆院選に挑み続けてきたが、「保守票を割っている」として自民党支持層からは厳しい視線を向けられることが多い。今回の知事選でも、すでに立候補を表明している古謝玄太氏の支持派から、ネット上で「また保守の邪魔をするのか」といった激しいバッシングが起きている。
ここで、下地氏が参戦した過去の衆院選(沖縄1区)の結果を振り返ってみる。
第48回(2017年):
赤嶺政賢(39.9%)
国場幸之助(35.9%)
下地幹郎(22.5%)
第49回(2021年):
あかみね政賢(42.2%)
国場幸之助(37.4%)
下地幹郎(20.4%)
第50回(2024年):
あかみね政賢(38.1%)
国場幸之助(32.2%)
下地幹郎(22.6%)
和田ともひさ(7.1%)
第51回(2026年2月):
国場幸之助(42.3%)
あかみね政賢(38.3%)
和田ともひさ(9.7%)
山川やすひろ(8.3%)※下地氏は不出馬
これらを見ると、下地氏が出馬した回は保守系の国場氏の票が抑えられており、「保守票を食っている」という見方は一見筋が通っているように思える。
宮古島のヒーローから政界引退、そして再起の思惑
下地氏は元自民党で内閣府特命担当大臣も務めた、宮古島出身の政治家だ。一時期は地元のヒーローのような存在だったが、離党後は国民新党や日本維新の会などを渡り歩き、2024年の衆院選落選後に一度は政界引退を表明した。
その後、沖縄本島と久米島を結ぶフェリー会社を立ち上げたものの、2025年後半の予定だった運行開始は遅れ、開始直後の事故による運休を経てようやく本格始動したばかりだ。もしこの事業が想定通り早く軌道に乗っていれば、それを手土産に早い段階での政界復活を狙っていたのかもしれない。
また、昨年オープンした大型テーマパーク「ジャングリア」の建設にも深く関わっており、プレオープン時には後援会として何百人もの支援者を観光バスで招待している。(筆者も偶然、「下地幹郎後援会」と書かれた観光バスが隊列を組んで今帰仁内を走行しているのを目撃している。)
引退を口にしつつも、こうした動きを見れば政治への執着や復活への意欲があることは間違いなさそうだ。
下地氏の最大の武器は、父親が創業者である沖縄大手の「大米建設」だ。宮古島発祥で現在は那覇に本社を置く同社の集票力は圧倒的で、下地氏が宮古の4区ではなく那覇中心の1区から出馬し続け、コンスタントに約3万票を獲得できていたのは、この企業の存在が大きい。
県知事選における「3万票」の本当の影響力
しかし、「下地氏は保守の敵だ」というネット上の騒ぎは、県知事選においては少し的外れかもしれない。前回下地氏が出馬した2022年の知事選データを見ると、全く異なる実態が浮かび上がる。
【2022年 沖縄県知事選の結果】
玉城デニー:339,767票(50.8%)
サキマ淳:274,844票(41.1%)
下地ミキオ:53,677票(8.0%)
仮に佐喜真氏と下地氏の票を足しても玉城氏には届かない。さらに注目すべきは、下地氏の地元である宮古島市での得票率だ。
宮古島市での得票率:
玉城(39.4%)
佐喜真(38.5%)
下地(22.0%)
全体平均と比べて玉城氏のシェアが大きく減り、下地氏が22%を獲得している。つまり宮古島においては、下地氏は保守票ではなく「オール沖縄票」を食っていたのだ。当時、もし下地氏がいなければ、その票の多くは玉城氏に流れていた可能性が高い。全体の得票率も8%にとどまるため、彼が出馬したとしても、保守陣営への悪影響はネットで言われるほど大きくはないと考えられる。
変わりゆく勢力図と「大米建設」の選択
現在の沖縄県政は、オール沖縄の内部分裂や人気低迷、辺野古抗議船の転覆事故などが重なり、玉城知事にとって厳しい状況だ。今回は保守陣営(古謝氏)が票を伸ばすのは確実視されている。
そんな中、もう一つの不確定要素として浮上しているのが、元豊見城市長・山川仁氏の出馬の噂だ。元れいわ新選組で現在は左派系の独自団体で動く山川氏が出馬すれば、現在の共産・社民中心のオール沖縄に疑問を持つ層がそちらに流れるだろう。獲得票数が5千や1万票程度だとしても、保革接戦となれば勝敗を左右するキャスティングボードを握ることになる。
興味深いのは、先日開かれた山川氏の資金集めパーティーに下地氏が出席していた点だ。下地氏自身が出馬せず、山川氏の支援に回る可能性もある。
一方、下地氏の親族企業である大米建設は、すでに自民などが推す古謝玄太氏の支持を表明し、下地氏に出馬を思いとどまるよう説得中だという。大米建設が古謝氏支持に動いたのは、「古謝氏優勢」と踏んだからだろう。沖縄は今も県政と財界の結びつきが強い。かつてオール沖縄が全盛だった頃は、地元大手がこぞってそちらにすり寄り、見返りとして外郭団体(沖縄都市モノレールやコンベンションビューロ)のトップの座などを得ていた。しかしオール沖縄の勢いが衰えると、財界は一潮が引くように離れていった。大米建設としても、保守票を割るイメージの強い下地氏を応援して古謝氏が当選した場合、今後の行政からの受注に悪影響が出ると現実的な計算をしている可能性が高い。
下地氏はまだ64歳。政治への執着は衰えていない。過去の選挙戦歴を見ても、勝算が薄くとも存在感を示すために動き続けるタイプだ。今回の知事選、本人が出馬するにせよ、あるいは山川氏の支援に回るにせよ、何らかの形で選挙戦に揺さぶりをかけてくることは間違いないだろう。
(余談だが、リベラル系の山川仁氏の兄は、日本維新の会に所属する山川泰博氏である。兄弟で政治的スタンスが真っ二つに分かれているのも、今の沖縄政治の縮図のようで興味深い。)
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