昨晩の那覇空港で何が起きたか
9月23日午後10時5分ごろ、那覇発佐賀行きのANA1502便が那覇空港の第1滑走路に緊急着陸した。機体は離陸後の上昇中に、右エンジンのオイル温度が高いとの表示が出たため引き返した。火や煙は確認されていない。
着陸後、機体は北側の誘導路上で停止し、乗客は脱出用シューターで降りた。幼児4人を含む乗客乗員158人は全員が脱出し、うち3人が擦り傷などの軽いけがをした。国土交通省は重大インシデントに認定し、運輸安全委員会は航空事故調査官2人を指名した。
乗客からは、ガタガタという音と振動がすごかったという証言が出ている。緊急脱出の案内で、さらにパニックになったという声もある。
同便は、那覇発福岡行きの全日空1216便が、午後10時までの福岡空港の利用時間中に間に合わない見通しとなって欠航したことを受け、行き先を佐賀空港に変更して運航していた。
原因は今後の調査で明らかになる。現時点で断定できることはない。
今年のANAには、悪い話が続いていた
今年に入ってから、ANAへの評判は目に見えて悪化していた。単なる接客への不満にとどまらず、経営体質や安全性を懸念する記事が繰り返し報じられている。
5月19日の国内線サービスのリニューアル後は、チェックインができないといったシステム不具合が出た。新運賃「シンプル」への不満も広がった。6月には、お問い合わせメールの返信が最大2か月待ちになる事態も報じられている。そこに今回の重大インシデントだ。ANAは今後の運営を根本から見直す局面に立たされた。
かつてのANAは「明るく元気」だった
20年ほど前のANAは、明るく元気なイメージを前面に出していた。JALが経営難にあった時期でもあり、印象は非常に良かった。安全面でも、重大インシデントを防ぐためのノウハウを企業向けセミナーで講義していたと記憶している。
そのANAが、今度は自ら重大インシデントを起こす側になった。
私自身もSFC会員として
私は20年以上前にダイヤモンド会員になり、その後はスーパーフライヤーズカード(SFC)を続けている。今は搭乗が年10回程度で、毎年1万円の年会費は正直むだ遣いになっている。それでも、時間があればラウンジでコーヒーを一杯飲めるし、那覇のようにほぼ満席になる便では優先搭乗できる。この2点がメリットで、SFCを続けている。
20年以上ANAを見てきて、最近とくに感じるのはサービスの低下だ。機内サービスの縮小や機内誌の希望者配布は、20年ほど前から各社で進んでいた。これはANAに限った話ではない。
しかし、ここ2〜3年は違う。スタッフのモチベーション低下を感じさせる接客と、遅延の多さが目立つ。時代の流れだと思っていたが、たまにJALに乗ると対応がとても心地よく、その差に違和感を覚えるようになった。
SFC改定で見えた「組織の変化」
今年の春に発表されたシステム改定と上級会員制度の見直しで、ANAという組織そのものが大きく変わりつつあることがはっきりした。
4月の発表では、2028年4月からANAカードとANA Payの年間決済額が300万円以上なら「SFC PLUS」、未満なら「SFC LITE」に分けるとされた。LITEはANAラウンジが使えず、スターアライアンスの会員資格もゴールドからシルバーに下がる内容だった。利用者からは大きな反発が起きている。
ANAは6月25日に、この改定内容の見直しを検討していると明らかにした。9月1日時点でも公式サイトの案内は変わらず、詳細は9月末までに改めて案内するとされている。新しい制度の発表は目前だ。
金融事業への傾斜が背景にうかがえる
決済額を条件にする発想を見て、私はすぐにピンと来た。ANAは今流行りの金融・ファイナンス事業に、本格的に乗り出そうとしているのではないのか。
ANAの金融への傾斜は、実は最近の話ではない。2019年にはANA Xが銀行代理業の許可を取得し、ソニー銀行を所属銀行として、マイル付きのデビットカードや外貨定期預金の取り扱いを始めた。2020年12月には、航空需要の変化に対応する新しいビジネスモデルの1つとして「ANA Pay」を開始している。2023年5月にはこれを大幅に拡充し、マイルからのチャージやタッチ決済に対応させて、日常の支払いをマイルと結びつける「ANA経済圏」を打ち出した。その延長線上に、決済額を上級会員の条件に据えた今回のSFC改定がある。
他業種にも同じ流れがある。イオンは小売で苦戦しても、電子マネーや銀行、保険で収益を上げている。今では小売が金融へ誘導する入口になっており、これはこれで成功している形だ。ドコモも、今年7月1日から金融事業を統括する新会社「NTTドコモ・フィナンシャルグループ」で事業を始めると発表した。どちらも、膨大な顧客基盤を持つからこそできることだ。
ANAも、マイルが貯まるクレジットカードの会員を土台に、金融へ広げたいのだろう。だが、小売や携帯会社と航空会社では、業態があまりに違う。しかも、金融で顧客を引き込む大前提は、本業の旅客事業が好調で、信頼されていることだ。
ANAの経営が悪いわけではない。しかし、経費削減や人員整理、人手不足でサービスが落ち、新システムのトラブルが続き、上級会員制度の見直しで強い批判を受けた。これらは確実に顧客を遠ざける。もし、ファイナンスに力をいれようとしているのであれば、金融ほど信頼がベースで成り立っていることを、全日空の経営者は理解できていないのだろうか。
整備・人員への投資を最優先にすべきだ
今回の事故の背景として、分析サイトなどでは整備部門の人手不足やベテランの流出が指摘されている。ただし、これは現時点では推測にすぎない。実際の原因は調査の結果を待つ必要がある。
それでも、「金融という金儲けを優先し、お客様の命への投資が後回しになっている」と受け取られても仕方のない状況だ。人の命を預かる仕事である以上、整備士やパイロットといった根幹への投資は、何より優先すべきだ。
番外編:今年の台風対応で感じたこと
沖縄は今年、台風の当たり年だ。以前は、ANAとJALの欠航判断はほぼ同じタイミングだった。
今年はANAが早々に「特別対応」や欠航を発表する一方、JALはぎりぎりまで判断を待ち、結果的に通常どおり飛ばすことが多かった。ANAは逆に、急きょ臨時便を出す場面もあった。
JALは、経験豊富な気象予報士や複数の予報を分析しているのだろう。人手不足のANAでは、そこまでの分析をせずに早めに欠航を決めているのではないか。これはあくまで私個人の見立てだ。
それでも、客室乗務員の対応は良い
サービス低下と繰り返し書いてきたが、機内での客室乗務員の対応は、今でも良いと感じている。現場の人たちは頑張っていると感じている。まだ、現場のモチベーションの全てが下がらないうちに、経営方針を改めるべきなのではないかと感じている。
今後のANAの経営方針を、引き続き注視していく。
