何度かジャングリア沖縄のことを書いてきた。
先日は173億円の赤字、株主総会も開かれ話題となったが、その数日後には沖縄振興開発金融公庫が新たに30億円のつなぎ融資を行うとの報道も出た。目先の資金調達に苦戦している実態が明らかになってきている。厳しい状況だ。
ジャングリアに関しては、どうにか経営を安定させ、沖縄北部の経済活性化につながってほしいというのが本音だ。しかし書くたびに違和感やズレを感じる。計画・建設の際、どこまで沖縄や沖縄観光を調査したのか。政府まで出資して開業させた施設にもかかわらず、なぜここまで苦戦しているのか。
元会社の「刀」はコンサル会社であり市場調査には長けているはずだが、その調査自体に大きなズレがあったのか、あるいは深く掘り下げた調査が行われなかった可能性すら感じる。
沖縄在住の目から見た、ジャングリア沖縄のことを綴ってみたいと思う。
なぜ「恐竜」なのか
ジャングリアのコンセプトして、「やんばるの豊かなジャングルという大自然のロケーションを最大限に活かし、圧倒的な「興奮とスリル」を演出するため」とされている。
しかし正直なところ、沖縄に恐竜メインのテーマパークができると聞いた時から違和感がある。恐竜好きの子供は多いが、なぜ沖縄に恐竜なのか。沖縄の自然を満喫できるコンセプトを掲げていたが、沖縄県民からすれば、恐竜とはまったく結びつかない。「やんばるの自然→ジャングルっぽい→恐竜」という稚拙な発想にも受け取れる。当初から恐竜モチーフのアトラクションも発表され、質の高いCMのかっこよさにかき消されているが、率直に言えばジュラシックパークのパクリにも見えている人も多いだろう。USJのアトラクションを拡大したような印象もある。何もないところから企画されたものとは到底感じられなかったのが最初の印象だ。
観光客の動向は調査されていたのか
ジャングリアは美ら海水族館の来場者数の半分、150万人を目標に掲げていた。美ら海水族館は年間約300万人。開業1年目の公表数はスパも含めて100万人で、目標には届かないものの、開業当初の悪評からすれば健闘した数字だと思う。しかし現状の施設で150万人は無理があるように感じる。美ら海水族館がなぜ300万人を集客できているのか、どこまで調査し分析していたのか。
沖縄旅行で美ら海水族館だけを目的に来る人、水族館だけを目的に北部まで来る人は少ない。多くの観光客は水族館の流れで古宇利島や備瀬のフクギ並木、オリオンビール工場見学に立ち寄り、北部の眺めの良いカフェや飲食店も楽しみながら観光する。
美ら海水族館に300万人が来る最大の理由は、短時間で満足度高く見学できることだ。館内はコンパクトで、入口から出口まで歩けば5分程度。じっくり見ても1時間ほどで見学でき、最後の大水槽の迫力と美しさには誰もが感動する。入館料も2,180円と手頃で、イルカショーも開催されている。
北部観光での美ら海水族館の滞在時間は2〜3時間程度だろう。この手軽さがあるからこそ、他の観光地も巡ることができる。もし水族館がほぼ1日を要する施設であれば、300万人もの来場者数にはなっていないはずだ。
例えば那覇のホテルを朝9時に出発すれば11時には水族館に到着。イルカショーも見学し、13時頃に景色の良いカフェで遅めのランチ。備瀬のフクギ並木や古宇利島へ。時間に余裕があれば道の駅や万座毛にも立ち寄り、那覇に戻れる。日帰りでも十分楽しめる北部観光となる。
しかしジャングリアはここだけで完結する施設だ。朝早くに行き、終日過ごす場所であるため、この時点で北部観光のコースから除外される。ジャングリアに行く人はジャングリアだけとなる。入場者数を150万人にするには施設としの相当な魅力が必要だろう。観光客の動向、動線をどこまで把握していたのか疑問だ。もちろん北部に宿泊することを想定していることとは思うが、2泊や3泊での沖縄旅行でジャングリアを旅程に入れ込むのは難しい。
もちろん、このようなレベルのことはある程度把握していることだろう。しかし、1日パークで楽しませ、満足させるには、周辺ホテルも含め、緻密な計算があってもしかるべきだ。今後、パーク内や近隣にホテルもできる予定ではあるが、ジャングリア自体がどこまで緻密な計算や策略があるのかが見えてこない。どこか行き当たりばったりのような印象がある。
沖縄特有の塩害問題
以前にも書いたが、沖縄の塩害問題も気になる。開業数ヶ月前、関係者と話す機会があり塩害対策を聞いたところ、まったく話が通じなかった。「何を言ってるんだ」という表情だった。
その少し前、2019年開業の某施設の話を聞いていた。塩害対策が甘く、5年目にして液晶モニターやプロジェクターが次々故障していたという。それを踏まえて質問したのだが反応が薄い。もし対策に取り組んでいれば沖縄特有の事情についてさまざまな答えが返ってくるはずだが、何も出てこないところを見ると、対策はあまりされていない可能性がある。
沖縄では台風のたびに海水が巻き上げられ、島全体が塩水をかぶる。台風後はあちこちがベタベタになり、戸建て住宅では水で塩を洗い流し、ガソリンスタンドの洗車機には1週間ほど行列ができる。大型台風後は水道局の給水が追いつかず節水を呼びかけることすらある。車も防錆アンダーコートやボディコートが一般的だ。
樹木は県内の大手造園会社が入っているので塩害に強い樹種を選んでいるとは思うが、大型台風後は本土の秋のように葉が枯れることも多い。
このような環境をどこまで把握していたのか。ジャングリアには屋外に機械仕掛けの設備が多くある。完全な塩害対策には莫大な追加予算が必要で、限られた予算で作られた施設である以上、十分な対策が行われているとは考えづらい。県内企業の施工であれば、最低限の対策や材料選定はされているだろうが、数年後にさまざまな塩害トラブルが表面化する懸念がある。
沖縄県民への向き合い方
開業から1年を超え、実際に足を運ぶ県民も少しずつ増えてきた。「思っていたより楽しかった」「食事が美味しかった」など評価は悪くない。私も同様の感想だ。ただ、県民向けの初動対応自体に誤りがあった可能性がある。
当初は本土や海外客をターゲットにしていたと考えられる。開業直前から本土ではCMが大量に流れていたようだが、沖縄では一切流れていなかった。県民が「ジャングリア」を耳にするのは、周辺住民の渋滞懸念を伝えるニュース程度。SNSでは「CMと全然違った」という声もあったが、沖縄県民にはそのCM自体がわからない。
沖縄県内では開業時の盛り上がりに欠けていた。開業し突然SNSで炎上している騒ぎを見ることとなったのが実情だ。もう少し、県民に寄り添った姿勢を見せていれば、県民からのイメージも変わっていたのではないかと感じる。
開業時の混雑が終わり客数が落ち込むと、時期によっては県民割チケットの販売や企業向け福利厚生チケットの促進、沖縄の芸人を起用した県民向けCMなど、来場者を増やそうとPRもしている。しかし実際に大幅に増えるかは疑問だ。那覇など南部の人はよほどの用事がない限り北部には行かず、何年も足を運んでいない人も珍しくない。往復2,000円ほどの高速代とガソリン代に加えひとり7,000円近い入場料を払える人は限られてくる。現役世代が子供二人を連れて行くには高すぎる。
沖縄の人は県内であまりお金を使わない傾向がある。無料の祭りには人が集まるが、有料のものは避けがちだ。「ジャングリアに興味はあるが、そのお金は東京や本土旅行のために貯めておきたい」というのが本音だろう。実際、私の周りで行った人は県民割や懸賞、会社の福利厚生で行った人が多いのが実態だ。
また、那覇からジャングリアまでは車で約1時間半。東京で言えば23区内の人が高尾山に行く感覚で、頻繁に行く距離ではない。県外客の落ち込みを県内客で埋めるなら、新しい仕掛けやサービスが必要だろう。この距離感への理解も薄いように感じる。
「やんばる」という言葉のズレ
やたらと「やんばるの自然」という言葉が使われている。名護や今帰仁を「やんばる」と呼んでも間違いではないが、県民の感覚では「やんばるの自然」といえばさらに北の大宜味村や東村、国頭村を指し、名護や今帰仁にそのイメージは薄い。誰もが口をそろえて言うのは「ゴルフ場の跡地でしょ」だ。この感覚のズレに違和感を持つ県民も多いだろう。
まとめ
開業当初の盛り上がりの中ではこうした違和感は表に出なかったが、時間とともに浮き彫りになってきている。
本土から沖縄に来て商売を始める際、移住者や企業はまず1年ほど住み、地域の特殊事情を理解し、地域によってはコミュニティに馴染んでから立ち上げることも多い。沖縄が特別な場所だとは思わないが、沖縄には沖縄なりの特殊事情があり、これは全国どの地域にも言えることだ。こうした事情はアンケート調査だけでは見えてこない実態も多く、そこまで踏み込んだ調査が行われていたのか疑問が残る。
ジャングリアを立て直すのであれば、この根本的な違和感やズレを改善し、実態に合った抜本的な改革をする必要があるのではないか。沖縄には経済重視の新しい知事が誕生する。今後は県の経済対策とも絡め、経営が安定し軌道に乗ることを期待したい。
